
出産という大きなライフイベントの最中に「低酸素脳症」という言葉を聞くと、大きな不安や戸惑いを感じますよね。まずは、あなたが今抱えているかもしれない不安に寄り添いつつ、この状態がどのようなものなのか、専門的な視点からわかりやすく整理してお伝えします。
出産時の低酸素脳症は、正確には「新生児低酸素性虚血性脳症(HIE)」と呼ばれます。
生まれる前後(出産中を含む)に、何らかの理由で赤ちゃんの脳に十分な酸素や血液が届かなくなることで、脳の細胞がダメージを受けてしまう状態を指します。
【主な原因】
お母さん側、赤ちゃん側、あるいは胎盤やへその緒の問題など、原因はさまざまです。
胎盤早期剥離: 赤ちゃんが生まれる前に胎盤がはがれてしまう。
臍帯(さいたい)脱出・圧迫: へその緒が首に巻き付いたり、強く圧迫されたりして血流が止まる。
分娩の遅延: お産が長引き、赤ちゃんが長時間ストレスにさらされる。
母体の低血圧や出血: お母さんの血圧が急激に下がることで、赤ちゃんへの供給が減る
赤ちゃんが生まれた直後に以下のようなサインが見られる場合、医師は慎重に経過を観察します。
アプガースコアの低下: 出生直後の呼吸、心拍数、筋緊張などの点数が低い。・・・アプガースコアとは、出生直後の新生児の状態を評価するスコアです。 1皮膚色、2心拍数、3刺激による反射、4筋緊張、5呼吸状態の5項目に対し、0~2点のスコアをつけます。 10~8点は正常、7~4点は軽症仮死、3~0点は重症仮死と判定します。
呼吸の乱れ: 自力でうまく呼吸ができない。
意識障害: ぐったりしている、または逆に過敏に反応する。
痙攣(けいれん): 手足がガクガクと震える。
現代の医療では、脳のダメージを最小限に抑えるための画期的な治療法として「低体温療法」が広く行われています。
低体温療法とは: 生後6時間以内に赤ちゃんの体温(または頭部)を33.5°C〜34.5°C程度まで下げ、そのまま72時間維持する方法です。脳の代謝をあえて落とすことで、酸素不足の後に起こる二次的な細胞破壊を食い止める効果があります。



今後の見通しについて
もっとも気になるのは「後遺症」のことかと思います。これについては、「脳のどの部分が、どの程度の時間、酸素不足になったか」によって一人ひとり大きく異なります。
軽度: 治療によって回復し、発達に大きな影響が出ないケースも多いです。
中等度〜重度: 将来的に脳性麻痺や発達の遅れ、てんかんなどの症状が現れる可能性があります。
リハビリテーションや早期の介入によって、赤ちゃんの持つ「脳の回復力(可塑性)」を最大限に引き出すサポートが行われます。